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会長挨拶

 令和元年第50回全国数学教育学会の総会にて,新理事の互選によって会長を拝命いたしました。令和という時代の幕開けに,さらには50回大会という学会の歴史の節目に会長に選出していただいたことは大変光栄なことでありますし,同時に大きな職責を担うことに身の引き締まる思いです。歴代の会長をはじめとして,多くの先生方が歩んでこられた道を踏襲しつつ,新しい時代や社会に対応すべく,精一杯取り組んでいく所存です。会員の皆様のご支援を心からお願いいたします。
 これからの時代には,学問的研究・国際化と,実践的研究・学校教育への対応という2つのベクトルを調整しつつ,数学教育の質を向上させることが課題となると思います。
 国際的にみれば,1970年頃に誕生した学問としての数学教育学は,20世紀の間にその思想,理論,方法等が一通り整備され,さらに21世紀の20年間に,学問・科学としての成立を越え,成熟を迎えようとしています。多様な国際誌が発刊され,数学教育学のテーマは分化・専門化の傾向にあるとともに,厳格な査読を経た基礎的で科学的な論文が日々生産されています。こうした学問としての数学教育学研究を推進することは学会の使命であり,これまで以上に学会員の方,とりわけ若手研究者の方々が研究を推進できる環境を整えて参りたいと思っています。
 一方で,学校現場では急速な勢いで教育改革が進められています。一昔前の教室とは異なり,ICT環境が整った教室で,児童・生徒がコンピュータやタブレットを操作しながらの学習が見られるようになり,それが当たり前となる時代も目前に迫っています。資質・能力を中心とした学力観での授業改革や入試改革など,目に見えて変化を感じます。大学の方でも,教員養成カリキュラム改革,全国の大学院の教職大学院化,大学間連携の構築といったことが生じています。これまで誰も経験していない社会や環境での研究や教育がなされようとしている今,実践的に有用な,新しい研究が社会から期待されるのは自然なことと思います。
 学会としては,これら2つのベクトルに引き裂かれるのではなく,両者に循環をもたらし,それぞれが豊かになる取り組みを進めていく必要があります。理論と実践,思想と方法,学問的研究と教員養成の間の巧みな調整こそが数学教育学の本質であり,学的居場所であることを,歴代の会長の先生方が指摘されてきました。そのためには,研究者同士,あるいは研究者と実践家が協働して研究に取り組み,研究のつながりを深め,また,理論と実践を往還させ,理論的にも実践的にも確かで有用な知見を創出していく仕組みづくりが必要と考えています。全国数学教育学会では,これまで和文・英文の2つの学会誌の刊行,学会賞の設置,海外研究者との交流,ヒラバヤシ基金による研究助成や国際学会参加支援など,制度面の充実が図られてきました。新しい学会の組織では,これまでの取り組みを継承し,役割を明瞭化しつつ,学会員の自立的参画を通した新しい試みが行えるように,これまでの部会を幾つかの委員会として再編させて頂きました。新生の委員会の先生方が中心となった活動を通して,学会がさらなる発展を遂げていくことを切に願っております。
 新たな取り組みとして,特に次の2つを考えていきたいと思っています。一つは,理論的・実践的研究の量的・質的充実を図っていくことを目的に,テーマ別のグループ研究を推進したいと考えております。研究の量・質の向上において個々の研究者の努力が必要なことは言うまでもありませんが,国内外の研究の状況や水準を理解しつつ,独自性ある研究を創出していくには,グループ活動という協働体制が今後は重要になると思っています。全国数学教育学会には,和文学会誌『数学教育学研究』,及び英文学会誌『Hiroshima Journal of Mathematics Education(HJME) 』があり,これらの学会誌を窓口にして,特色ある取り組みを研究の発展や数学教育学の国際化へどのように繋げていけるかを,学会員の皆様と一緒に考えていければと思っています。
 二つ目に,修士課程(学問的研究)から教職大学院(実践を核とする研究)へ,全国の大学が移行することに鑑みれば,学会としての研究者養成は大変重要な課題となると思っています。そのため,新たに若手研究者育成委員会を設置させていただきました。若手研究者育成委員会の先生を中心に,学会員の皆様全員で,学会としての研究者養成や新しい時代の数学教育学研究について考えていきたいと思っています。若手研究者が育つ学会でありたいと思いますし,またその実現に向けて最大限努力していきたいと思います。また逆に,若手研究者から刺激を受け,ベテラン研究者の研究が活性化することこそが,学会全体によい循環をもたらすことにつながると思います。
 学会員の皆様から忌憚のないご意見をいただきながら,数学教育学研究の推進に努力していきたいと存じます。ご支援,ご協力のほど,なにとぞよろしくお願いいたします。

令和元年10月1日
全国数学教育学会会長
岡崎 正和